相続・遺言

噂に聞いてはいたけれど

 亡くなった方の相続財産を解約したり現金化する手続きを、相続人の皆さん全員からのご依頼で行うことがあります。相続人が、高齢の方ばかりだったり、それぞれに疎遠で連絡が取りにくかったりする場合に、重宝がられます。

 今も、関西と関東に暮らす二人の高齢の方が相続人の事案について、銀行預金の解約などを行っていますが、その手続きをすべき財産の中にかんぽ生命の保険がありました。同業者から、「かんぽ生命は自分のところのルールばかり持ち出して、かなり面倒くさい。腹が立ってくる」と聞いていたのですが、確かに、他の保険会社では何ら問題ないことでも、ダメ出しをしてきます。

 ミセス家計簿は、「かんぽ生命に入ってたら、相続人に迷惑かけますね」と嘆いていました。まぁ、不正な手続きを許さないのは当然ですが、ある程度は現実的な対応をお願いしたいものですね。他所の保険会社で通じていることを受け入れないのは、払い渋りのように感じられます。

 新聞の投書欄に、司法書士が成年後見監督人に選任されて、年間10数万円の報酬を請求されたという話が掲載されていました。それを読んで、激しく同意した人が全国には数多くいたことでしょう。支払う側からすれば、「監督人をつけてなんて頼んでもないのに」と思ったとしても不思議ではありません。

 監督人に選任された専門職の立場で言えば、法律に定められた監督人としての注意義務を果たし、後見人の不適切な事務を見逃すことがないようにと、結構神経を使っているのです。監督人より、自分で後見事務をする方がずっと楽だというのは、割合に多い意見なんです。もちろん、報酬額は家庭裁判所が決定するもので、わたしたちが希望を出すわけでもありません。

 不正防止と、投書のような不満解消の両立を図るには、後見制度支援信託のような家裁の許可がないと引き出しできない金融商品の更なる開発なのかな、とつくづく思います。「使いやすい制度に」「使ってよかったと思える制度に」を実現させないと、利用促進には結び付きませんね。

危急時遺言の危急とは

 重い病に罹っておられる方から、遺言作成の支援の依頼をいただいたとき、専門職としてはどのような助言をするべきなのだろうか。

 重病とは言え、自宅で多少の家事もこなしながら病院通いをされていた方だったので、疑問を抱くこともなく公正証書遺言の準備を着々と進めていたのだけれど、公証人に示す資料集めなどしている1週間ほどの間に亡くなってしまった事例があります。

 公正証書で遺言を作成しようとすると、どうしても資料が必要となります。不動産登記事項証明書や、戸籍謄本や受遺者を特定するための根拠など。財産を渡す人に、予め遺言の内容を告げて、住民票などを提供してもらえれば手っ取り早いのですが、遺言で財産を遺すことを言いたくないケースも多く、そのような場合は色々と苦慮し、時間も要します。

 ところで民法976条では「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは」として、臨終の遺言について要件を緩和しています。作成時の要件が緩和されている分、遺言の日から20日以内に家庭裁判所による「確認」という手続きを経なければなりませんが、下準備は楽になります。

 「死亡の危急」というと入院中で床に臥しているイメージが拭えませんが、教科書には、生命の危険は客観的である必要はなく主観的で構わないと書いてあります。

 但し、このケースで危急時遺言を利用できたかは、やはり疑問でもあります。ご本人がまだ数年生きて行くつもりであり、現に臥せってもいないのに、そのような方式を提案するのは大変抵抗のあることです。主観的に、死亡の危急にはないのです。

 それよりも、公正証書の準備が整うには急いでも2週間はかかるでしょうから、それまでの間のために、いくら余命はまだ月単位であるように思われても、自筆証書遺言を残すよう助言すれば良かったか、と思います。

 せっかく意思を確定されたのに、効力ある形で残せなかったことは悔いの残る出会いでした。しかし、相続人らが、希望を受け入れて対応されたので、準備を始めたこと自体にも意味があったということもできます。

遺言執行者として証券会社と取引

 遺言執行の経験はいくつかあって、不動産売却などもしていますが、先日、初めて証券会社との取引を行いました。

 遺言者が証券会社に口座を持っていたのですが、かねてより薄々感じていた通り、銀行預金の取扱いとは違っていました。

 銀行預金の場合は、遺言執行者としていきなり解約して、現金にしたり執行者名義の口座に振り込んだりできます。一方、証券会社の場合は、一旦同じ証券会社に遺言執行者としての口座を開設せねばならず、そちらへ遺言者の財産を移管するのです。そうしなければ、株式などの売却ができないそうです。

 最初聞いたときは、なんで?清算権限を持った執行者として売却させてよ、と思いましたが、不動産も死者名義のままでは売却できないのと同じだと言われて納得いたしました。ちなみに作った口座名は「故○○○遺言執行司法書士梶田美穂」というもの。「司法書士」を入れて職能を明らかにしておく意味は何なのか?遺言執行者に資格は必要ないのだけれど、あまりその点は追及しないことにしました。

 遺言執行者口座が開設されたら、同時に財産は移管されるようで、その後の取引は通常と同じこと。すなわち、電話で売却の指示ができるのです。手軽で良いのですが、でも、これが結構違和感があります。手続きが重たすぎるとしょっちゅう文句を言っているものの、普段は書面のやり取りで事務を明確化しているだけに、多額の財産の処分を電話で済ませるなんて、気持ちが落ち着きません。わたしが言ったことと、あなたが聞いたことは一致してる?大丈夫?

 おまけに、売却した代金全額を銀行の執行者名義口座に振り込んだ後、残高がゼロになった口座の閉鎖も、口頭でOKだそう。ふうむ、ホントかなぁ・・・

 取引明細は事後送付されるので、後から内容は確認できるのですが、それまでは何となくフワフワした思いを抱えることになりました。

 これが証券会社の通常の取引方法のようですから、それに従ったわけですが、もしも執行者側の要望としてもっと厳格な手続きによる売却をしたい場合は、その余地はあるのでしょうか?自助努力として、電話を録音しておくくらいしかできないのかな?窓口に行っても、別に書類を書くわけではなさそうだし。相場のある取引は迅速性が最優先されているということですね。勉強になりました。

 ところで、遺言執行者の善管注意義務として、どの程度相場に注意を払っておかなければならないのでしょうか。個人的には、原則、成行きでの売却で構わないと思っています。でも、そんなこと、どこにも書かれていません。きちんと理論武装したいものです。

シエスタ効果

 お昼ご飯を食べ損ねたので、帰宅するまで待ちきれず、夕方近所のカレー屋さんでカレーを食べて残業頑張ろうとしたら、机に戻ると強烈な眠気が襲ってきて30分ほどお昼寝、いやお夕寝をしてしまいました。

 起きてみたら頭すっきりで、そこそこ作業は捗るし、日付が変わっても全然眠りたくありません。30分の睡眠でも、大変な効果です。適度なお昼寝は、午後の作業効率を上げると言いますが、それが数時間ずれてしまったような感じ?嬉しいような、明日のことを考えると困ったような・・・

 さて、財産を持っているお爺ちゃんが、孫4人に公平にお金をあげようと思って、100万円ずつ贈与したとします。あり得る話ですよね。

 でも、この4人の孫が、長男の子1人と次男の子3人の場合、子である長男と次男の間で見れば、長男側100万円、次男側300万円となって、長男からは不公平に見えてしまいますね。

 孫への贈与は、相続の際に不公平を調整する「特別受益」には当たりませんから、どうすることもできません。お爺ちゃんとしては、子供からどう見えるかも、考えても良いかも知れませんが・・・

遺言はありませんか?の問い

 子のない夫婦の場合、片方が亡くなると、その相続人は残った配偶者と亡くなった人の兄弟姉妹(先に死亡していれば甥姪)になります(もちろん、親が生きていれば親と配偶者ですが)。遺言を書く必要性が高い例として、よく取り上げられます。

 子のない夫婦の夫が亡くなり、夫婦共有の自宅について相続登記をしたいという相談を受けました。司法書士にとって、とても一般的なよくある相談事です。相続人には、全く音信のない甥と姪がいました。さて、どうするか?ということで、取りあえず郵便で連絡を取ってもらったのですが、音沙汰なし・・・ 困ったなー、遺産分割調停を使う?それとも?と相談していたら、依頼者が「二人で約束してただけやから・・・」とつぶやきます。「それは何のことですか」と聞いていくと、どうやら「自分が死んだら相手に遺す」という意味の手紙を書いているとのことでした。

 二人の約束、ということなので、もしかしたら共同遺言になっていて無効かも?と思ったのですが、ちゃんとそれぞれ別の便せんに書いている!そして、日付も押印もあるではないですか。なんとまぁ、ここにれっきとした自筆証書遺言が残されていたのです。

 ご本人は、その便せんについて親族から「そんなんあかんやろ」と言われたために、遺言と認識していなかったとか。単に「遺言はありませんか?」と尋ねるだけでなく、もっと具体的に踏み込んだ聞き方をしていれば、無用に悩むこともなかったのに・・・ またまた、よい勉強をさせていただきました。

 しかし、その遺言が隅に押しやられたままにならなくて本当に良かった!!そのことにホッと胸をなで下ろします。

 遺言は、その内容はもちろんのこと、書いたこと自体について秘密性は高くあるべき、と思い込んでいたのですが、先日の家族法研究会での床谷先生のお話によれば、かつて遺言とは村の有力者の前で公然と行う行為だったそうです。確かにそれも一理あるのかな、と思った次第です。

同時死亡の推定

 民法第32条の2「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。」

 この法律の効果として、同時に死亡したと推定された者同士の間には、相続は発生しないことになります。

 もちろん「推定する」ですから、確かな証拠により覆すことはできますが、どちらかが後で死んだとなると相続関係に大きな影響を及ぼすケースもありますので、この推定を覆すには明確な証拠が必要と言われています。

 諸外国では、年長者が先に死亡すると一律に決めている例などもあるようですが、いずれにせよ、何らかのルールがないと同じ事故などで親子や夫婦が死亡した場合に利害が対立する関係者がいて揉めることがあるのでしょう。

 医療技術の発達によって、恣意的に死亡時刻を遅らせることもできるという指摘もあるみたいですが、ともかく死亡の順序は誰が相続人か、そして相続分はどれだけかに大きな影響を与えるのです。ということを、ニュースを見ながら考えていました。

たたかう司法書士!?

 またもや、超意外なところから「ブログ更新してないでしょ」と指摘を受けてしまいました 見てみると、先月の記事はなし!9月までの緊張状態がほぐれて、弛緩しきっていたものな~ 心だけじゃなく、からだもだから目も当てられない!!

 さて、3か月前に「貸金庫の開扉」という記事で、さる信託銀行では、遺言執行者に「貸金庫を開扉する権限」を付与していても、執行者が相続人ではなく司法書士などの場合は、別に相続人一人の立ち合いが必要と言っている、ということを書きました。

 先ごろ、わたしが執行者に指定されていた遺言について相続が開始したので、先の信託銀行ではなく、地銀の貸金庫を開けに行ったのですが、もしもうるさいことを言われたら闘おうとファイティングスピリットを充填していたのに、あっさりと(いや、本部に照会かける小一時間待たされましたが)開けることができ、肩透かしでした。

 そう考えると、やはりその信託銀行の対応は、法的根拠がないと考えられるだけではなく、金融業界でも一般的ではないように思われます(法的根拠がないと考えられるのに、金融業界で一般的に行われていることは、いくつかあります)。

 もしも、遺言執行者に指定したいと言ってくれる依頼者が、その信託銀行に貸金庫を借りていたとしたら、「かくかくしかじかなので、その貸金庫は解約しておいてくれないとスムーズな執行ができない」と説明するのか、いざ執行者になってから信託銀行と闘う絶好の機会と捉えるのか、難しいところです。

 というようなことを先輩同業者と話していたら、相続財産をもらう立場の相続人が「早く終わらせて欲しい」と言うだろうから、銀行と闘うチャンスは消えてしまうだろうという結論に落ち着きました。

貸金庫の開扉

 業務の都合で、この春合併した信託銀行の人と電話で話しました。

 何かと(わたしが思うところの)必要以上の手続きを踏もうとするので、「もしも遺言で遺言執行者が指定されていて、貸金庫の開扉する権限が明記されていた場合、執行者は単独で貸金庫を開けられるのか?」と尋ねると、執行者が相続人であれば単独で開扉可能だが、執行者が司法書士や弁護士などであれば、加えて相続人の一人の立ち合いが必要なのだそうです。

 実は、遺言執行者として貸金庫を開けたことがないので、それが金融機関の標準的な規律なのかと、同業者に聞いてみましたが、決してそんなことはなく、執行者単独で開けたことは何度となくあるとのこと。

 同業者の中に、せっかく遺言を作っても、その甲斐が失われるような過重な手続きを要求する金融機関を、都度訴えて、態度を変えるよう運動すべき、という意見がありますが、わたしも心情的には大賛成です。ただ、現実にその局面に立った時、それだけのエネルギーの余剰があるかは自信がありませんが・・・

 執行者に指定されている件で、近親者から貸金庫の扱いについて相談されたとき、「貸金庫の開扉する権限」も付与してもらっているから、ご本人が亡くなってからこちらで開けますよ、と当然のように答えたけれど、その銀行の内規を事前に確認しておいた方がよさそうです。けれど、絶対と言ってよいと思いますが、一般的な問い合わせとしては答えてくれないだろうなぁ。

自由って何だ?

 日が着実に長くなって来ましたね。寒さはこれからが本番ですけど。「冬来たりなば、春遠からじ」。悪い出来事があっても腐らずに行きましょう、と自分にエールです。

 さて、遺留分です。遺留分は、遺言者の財産処分の自由と相続人の公平性を調整する役割があるそうです。しかし、わたしは、生きてる間は自分の財産をどのように使おうが自由なわけだし、成年後見人として「ご本人の財産はできるだけご本人のために有意義に使いましょう」という考え方が是とされていると思われるし、ご本人の死亡時に財産がゼロになっているのが理想的という意見まであるのだから、そこから演繹すれば、自己の死後の財産の行方も100%自由に決められていいのじゃないか、その自由を制限してまで保護すべき利益などないのではないか、と思っていました。

 昨日も、来月の家族法研究会の発表会打ち合わせをしていたのですが、その最中にハタと頭に思い浮かびました。遺言者が100%自由に財産を処分できるべきである、という考え方の前提には、遺言者を取り巻く人たちも100%自由に振舞っていることが必要ではないか、と。遺言者の家族が、色々なしがらみや風習や伝統などに束縛されて自由に振舞えないのなら、その不自由さについては無自覚かも知れないけれど、確かに、遺言者だけが自由にするのは理不尽な結果になることもあるかも知れない、と。

 一つのテーマを少しずつでも考え続けると、色々と新しい発見があるものです。昨日の打ち合わせのメンバーも、最初とは考えが変わって来た、と言っていました。これこそ研究である、という気もしています。自画自賛が過ぎますかね?

遺留分減殺請求権を債権者代位権の目的とすることの可否

 来月の家族法研究会発表会準備で、標記の判例のまとめをしています。判決文を取り寄せて必要個所を抽出するのですが、簡単なようで難しいです。全てが重要に思えて、そうすると要旨ではなく書き写しになって長くなるし・・・

 でも一番の難所は、相続関係図を入れること。それがあると文章だけよりずっと理解しやすくなるからと思ったのは良いのですが、わたしの稚拙なワープロ技術では時間がかかることこの上なく、ついにギブアップしました。明日、puっちゃんに手助けをお願いしてみよう♪と準備していたら、突然笑いが込み上げて抑えられませんでした。だって、情けないじゃないですか!さして年の違わない人に、パソコン技術で助けを請うなんて。いつも所長風を吹かせてるのに スマスマの「昭和時代」のおじちゃん達みたいです。

 遺留分減殺請求権は、帰属上の一身専属性はないけれど、行使上の一身専属性があるとして、それを行使するか否かは遺留分権利者以外の者は介入できず、債権者代位権の目的とはできない、と判断されています。最高裁平成13年11月22日判決です。学説では反対意見が多いようですが。

 今回の資料作りは、全15の判例を研究会メンバーで手分けして作業しています。