後見人と身元保証
初めて後見人になった同業者の困惑の話を聞きました。
ご本人が入所する施設から後見人に身元保証人になるよう求められた、なってはいけないと思っているが、身元保証をしてくれないのなら入所はできないと言われ困っている、という内容です。
確かにこのような申し出はよくありますが、これまでの経験では結局施設側に理解をしてもらっています。
まず、「身元保証人にはどのようなことを求めておられるのでしょうか?」と尋ねます。施設の用意する契約書には、身元保証人が負うべき責務が明瞭に記されていない場合が多いからです。そして、この問いに答えをもらえたことは多分なかったように思います。
そこで、こちらから「恐らく身元保証人に期待される役割は次の三つではないかと思います」と言い、①ご本人が施設に対して負う債務についての連帯保証、②ご本人が意思表示できなくなった場合の意思決定、③退所時の手続、を挙げます。そして一つ一つをつぶしていきます。
①については、「わたしは職業で後見人をしているので、わたし自身の財産からご本人のために支払をするということはできません。けれども、後見人として、生じた費用はきちんと本人の財産から支払いますし、またご本人にはこちらの利用料を負担できるだけの収入または資産が十分にあります。」と言います。
②は、後見人が就いているのだから心配ありませんよね?と念を押します。
③については、別の施設に移るときには当然後見人として手続しますし、亡くなった場合には、頼れる親族の方もないので、最低限の手続は家庭裁判所の了解を得てわたしがする覚悟です、と説明しています。
その上で、契約書に「身元保証人」と予め印字されている肩書きを横線で消して、「後見人」などと書いて署名押印しています。
①の支払能力について施設側が裏付けを求めてくる場合には、適切な方法で応じることがご本人の利益に適うこともあると思います。例えば年金額決定通知書を提示するなどです。取引の相手方の支払能力を確認したいという要請は、私的自治の下では当然のことと考えます。ただ、これまで何かを見せて欲しいと要望されたことはありません。ケアハウスへの入居を検討した際に、保証人を立てられないなら預金の残高証明書を出すよう要求され立腹して断った高齢女性の経験談を聞いたことがありますが。
特別養護老人ホームの場合には、身元保証人を立てることを入所の条件としないように、と厚生労働省も求めていますので、それを抗弁に身元保証・引受を断ることも可能でしょう。
第三者後見人としては、福祉・金融・行政の現場で、相手の土俵に上がってしまうのではなく、こちらの土俵で話しをしないと埒が明かないことが多いように思います。どうしても相手方は、こちらを親族の変形のように受け止めてしまうようです。
但し、強硬にこちらの立場を主張しても軋轢を生むだけなのは言うまでもありません。