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制限行為能力者

 昨日は大阪司法書士会の新人研修。模擬相談を経由して成年後見開始の申立書を作成するカリキュラムがメインでした。

 設定事例では、本人は一昨年に訪問販売で浄水器を購入してしまい、未開封のままでおいてあって、ローン会社からの督促状が届いています。わたしは模擬相談では相談者で、本人の兄役。新人たち演ずる(?)司法書士に「その成年後見というのを使うとどんなメリットがあるんですか?」と尋ねました。『後見人には取消権があるので、弟さんが一人でした法律行為を後から取り消すことができますよ』という説明があって、兄が『では、この浄水器を買ったのも取り消せるのですね!』と喜び、『いえ、後見人になる前の行為は後見人の取消権は及びません』という展開を期待していたのですが、当ては外れて取消権の説明は出てきませんでした

 民法において、成年者は原則行為能力を有しています(4、5、6条)。そして、成年者に後見が開始されると行為能力が制限され、本人がなした行為(ただし日常生活に関する行為を除く)を後見人が取り消すことができるようになります。こうして、行為能力を制限することで判断能力が衰えた者を保護する仕組みが成年後見制度です。保佐・補助は行為能力が制限される範囲が異なります。

 一方、意思能力のない者が行った法律行為は無効という古い判例があります。意思能力を有していることは法律行為の大前提なのです。ところで、法律行為の際に意思能力があったかなかったかは、その都度判定しなくてはなりません。重度の認知症患者が法外に高額な商品を購入したところ、その売買は意思無能力だったから無効であると主張しても、意思能力がなかったことを立証することは現実には難しく、なかなか本人の保護にまで行きつきません。

 そこで、成年後見制度では、意思能力(判断能力・事理弁識能力と同意と考えて良いと思います)が不十分な者の行為能力を制限することによって、意思能力の有無を判定することなく、取消権行使によって法律行為を無効にできるようにしているのです。

 ですから、いくら精神上の障害が重く、自分で判断する能力がなかったとしても、後見が開始していない段階では「行為能力がなかったとして取り消す」などという主張は成り立ちません。行為能力は制限されていないからです。「意思能力がなかったから、その法律行為は無効だ」という主張をするか、もしくは他の取消権(例えば消費者契約法上とか)の行使ができないか検討することになるはずです。

 浄水器の代金請求への対処は重要な論点ではなかったので深い議論には至りませんでしたが、意思能力と行為能力の違いが曖昧なままの人は多いようでした。

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