財産管理等委任契約のスタート
5年前に、「見守り契約及び財産管理等委任契約」と「任意後見契約」と「死後事務委任契約」の締結に加えて、遺言でわたしを執行者に指定しているZさん。フルコースで、一人身の老いの準備をされました。これまでは、見守り契約の内容として年に数回の面会をしながら、老人ホームの入所や住居の明け渡しなどを側面から援助、まさに見守って助言するということをしてきましたが、昨年末にご本人が体力と気力の衰えを訴えられ、今月から財産管理等委任契約をスタートさせることになりました。
財産管理等委任契約とは何か?任意後見契約とは違うのか?というと、任意後見契約は「任意後見契約に関する法律」に基づく契約であり、①公正証書によってしなければならない(3条)②任意後見監督人が選任された時から効力を生ずる(2条)などいくつかのルールが法律で規定されているのですが、財産管理等委任契約は「契約自由の原則」に基づいています。
Zさんと結んだ財産等委任契約は、「ご本人が希望した時に効力を生じ」「任意後見契約が発効したら終了する」と期間を定め、「財産の保管や金融機関でのお金の出し入れ、介護契約など高齢者の生活に必要な法律行為を委任する」内容になっています。すなわち、任意後見契約は判断能力が衰えた時のための備えですが、財産管理等委任契約は、判断能力に衰えは見られない、認知症などは始まっていないけれど、お金の事やら介護契約などを自分で行うのは自信もないし億劫だ、という時のための備えなのです。そして、四捨五入すれば90歳!のZさんは時々体調を崩すこともあり、「全部先生に任せたいんです」と仰るに至ったわけです。
つまり「ご本人の希望」が示されたわけで、これまでの見守り契約から財産管理等委任契約へ移行することになるのですが、見守り契約時代には年間で10万円程度の報酬でしたが、財産管理等委任契約になると毎月数万円の報酬が生じてきます。ここが大きな違いなので十分な説明が必要です。ご納得が得られれば通帳などをお預かりして、まずスタート時点での財産目録を作成することになっています。こうしたルールや手順は法律に規定がないので、契約書の中できちんと定めています。
財産管理等委任契約は任意後見契約と違って、効力を生じても監督人が付かないので、受任者(わたしのことですね)に対するチェック機関はご本人だけ。ここに危険が潜んでおり、不祥事が起こりやすい土壌と言えます。従ってリーガルサポートでは、リーガルサポートへの事務報告を義務付けています。もちろん個人情報の開示につながるのでご本人の承諾が必要です。通常はその趣旨を説明の上、契約書の中で承諾をいただいています。
また、リーガルサポートでは財産管理等委任契約だけを締結することは原則認めておらず、判断能力が衰えた時のための任意後見契約を併せて結ぶことになっています。財産管理等委任契約の場合は、先に書いたようにご本人のみがチェック機能であるにもかかわらず、そのご本人が判断能力が失われるとチェックもできなくなってしまいます。ですから、適正な権利擁護のためには、ご本人に判断能力の衰えが見えたら任意後見契約を発効させるべきという考え方なのです。現行法で考えれば、ご本人の判断能力が衰えたからといって、当然に財産管理等委任契約が終了するわけではないので、引き続き代理権を行使してお金を下ろしたりしても良いということになるのですが。
Zさんについても、判断能力に衰えが見られるようになるまでは、そんな日は来ないかもしれないのですが、財産管理等委任契約に基づいて主にお金の管理をし、もしも物忘れがひどくなったりすれば、医師の診断書をもらって任意後見契約を発効させる予定です。それまでの間、事務の報告は、ご本人とリーガルサポートに行っていきます。今後は月に一度は訪問することになり、より一層Zさんに関わって行けるので楽しみです。