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2007年5月

空襲体験

 Dさんは大正生まれの86歳。戦時中は神戸に住んでおられたそうで、空襲に何度も見舞われたとのこと。昨日も、逃げ惑った時の経験を豊かな表現で何度も語ってくれました。米兵がヘリから機関銃を市民に向けている姿がくっきり見えたそうです。その本当の恐怖感は体験した方でないとわからないのでしょうが、想像するだけで足がすくむ思いです。何やかやと理屈を付けては戦争を止められないのなら、せめて人間は愚かな生き物であるのだと自覚すべきだと思います。

 Dさんは隣宅の幼女二人を連れて逃げる役目を負っていたそうです。重責だけれど四の五の言ってる場合じゃなかった、ともかく怪我させたらあかんと必死だったそう。大きなため池に潜って爆撃をやり過ごす件を聞いて、そんな風に生き抜いて来た人に敬意を払わずにいられません。それにひきかえ今の時代は・・・とつい思ってしまいます。

高次脳機能障害

 こんな言葉を聞いたことがありますか?「交通事故や脳血管疾患(脳卒中など)により、脳の損傷を経験した人が、記憶・注意・思考・言語などの知的な機能に障害を抱え、生活に支障を来たすこと」などと説明されていますが、医学的な定義は定まっていないとも聞きます。外観では障害が判らないので他人の理解が得られず苦しむ交通事故被害者の事例は、テレビ番組などでご覧になったことがあるかもしれません。

 成年後見法学会でも重要テーマとして研究チームが作られています。私自身が勉強不足でどのような問題点があるのか触れることはできませんが、ちょうど「高次脳機能障害と成年後見制度の活用」というシンポジウムの報告に目を通そうかと思っていた矢先でした。友人の配偶者が脳血管の病気のために言葉を失っているというのです。突然身近なことになってしまいショックでした。心配事などなく笑っていられた学生時代は遠い昔です。

特別代理人

 同業者だからと言って、成年後見について同程度の知識を持っているわけではありません。登記の基本的事項についてはあまり知識の差はないと思いますが、裁判関係や成年後見は、携わるか携わらないかの差が大きいのです。つい先日、開業当時にずいぶんとお世話になった大先輩から質問がありました。

 認知症を発症しているお母さんの所有地の上に、息子がローンを借りて家を建て、土地と家に担保設定したいのだが、ローンを借りる銀行から成年後見制度を利用するように示唆された。この場合、当の息子が後見人になるのはどうなのか?というものです。

 後見人になると、本人の代わりに様々な法律行為を行います。上記のケースでは、担保設定契約を銀行と締結するのは、土地と建物の所有者ですが、土地の所有者であるお母さんの後見人は息子なので、結局息子一人が銀行と契約することになります。一見問題なさそうですが、その契約は息子自身の債務を担保するために行うものですから、息子の利益のためにお母さんの土地を担保に差し出し、いざという時には競売されるという危険に晒すことになります。つまり息子とお母さんはそれぞれの利益が対立するのです。心情的にはそんなことはないのかもしれませんが、法律では構造だけを見てそのように判断します。そして、利益が対立する人が代理人となっていると、本人、この場合はお母さんの利益が守られない虞があるので、このような利益相反行為は許されません。質問の事例であれば、その担保設定契約の局面において、息子の後見人の代わりをする「特別代理人」を家庭裁判所に選任してもらわなくてはなりません。(民法860条)

 大先輩も利益相反のことは懸念されていました。しかし、このケースでは他にも気になる点があります。お母さんの立場からすれば、自分の土地の上に他人(息子)が建物を建てる、ということは土地を貸している状態です。家族内のことなので、地代をもらうようなことは予定していないかもしれませんが、家庭裁判所からは、たとえ息子であろうともちゃんと相場の地代を貰って下さいよ、と指導されることが多いそうです。後見人は常に家庭裁判所の監督下に置かれている、ということを忘れると、後からが大変です。

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